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概要

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ないか、との思いと、優れた発明でありながら評価されず賞を逸するものが出ては気の毒という二つの思いから、発明の内容を予め明細書を読んで理解した上で審査に臨むべきと考えた。そこで、再び宮城局長にお願いして応募発明のうち出願中のものについては、事前に余裕を持って公開公報(*1)を私の事務所に送付して貰うこととした。この方法は、私の知らない分野の技術を理解するのに大変有効な手段で、これを読み理解するのに相当の時間を要したが、思い返すと適切な方法だったと思っている。この方法を採るようになった後の審査会からは、むしろくふう展の到来が楽しみで、当日の発明者の説明が不十分で審査員には理解されていないのでは?と思われる発明については、随時私が補足説明を加えることも可能となり、このやり方は審査員を辞するまで続いた。(*1)特許出願がなされ1年6か月が経過すると、出願明細書の全文が公開公報に掲載され、発明の内容が開示される。この制度は、昭和45年の改正により設けられたものである。最近は、審査が速くなっていて、分野によっては1年半経たないうちに特許権が発生するものもある。しかし、以前は、権利発生までに相当の期間を要するのが通例であった。したがって、同業他社(人)が何をターゲットとした研究開発をしているか、具体的にどんな出願をしているか、等については全く知ることが出来ず、出願発明が審査を経て公告となって初めて知ることが出来るという状況であった。(これに反し、拒絶査定となった発明については、第三者はその内容を永久に知ることは出来ない。)そんな中で、この昭和45年の改正により1年半経てば発明が開示されることとなったため、1年半前の時点では業界ではどんな技術に目が向けられていたか、研究対象や進捗程度も知ることが出来るようになったので、無駄な研究も避けられるようになった。なお、公開時には、特許権が未発生の場合が殆どであるから、他社の公開中の発明を無断で実施する者が出ると、出願人にとっては損失を蒙るので、これに対処する規定が設けられている。 一方,世の中は常に不届きものが後を絶たず、最近も新型コロナ対策の一つとして給付金の制度が発表されると、直ぐにこの制度を利用した詐欺行為が発生している。特許出願の公開制度についても、同様に金儲けを企む者が現われた。公開された発明の内容の如何を問わず、代理人なしの出願のものを選び「あなたの発明は優れているので表彰したいが、受けたいならば○○万円を振り込むように。」とのダイレクトメールを発送するのである。送金すると「日本発明振興会」「日本優秀発明顕彰会」等,いかにも実態がありそうな団体名と代表者名、大判の印影のある立派な額入りの表彰状が送られてくる。発明工夫展では、これを信じて展示物の傍らにその表彰状を飾っている出展者が、毎回、2,3点見受けられた。最近はどうであろうか。呉屋繁雄氏の「第29回杉山英男賞」の受賞 ここで、突然話が変わる。いきなり「杉山英男賞」と言われても、どういう賞なのか見当がつかない方が殆どであろう。私自身、これを知ったのは呉屋繁雄氏の受賞がキッカケである。凡そ今から4年前の平成28年(2016年)6月、東京大学大学院農学生命科学研究科に事務局を置く木質構造研究会から呉屋繁雄氏に、「木質材料・木質構造技術研究基金賞(通称杉山英男賞)」の対象となったので、顕彰と研究成果についての講演をお願いしたいので出席して貰えないかとの連絡が入った。呉屋繁雄氏は、ご存知の方もあると思うが、昭和61年(1986年)の第10回沖縄県産業まつりの発明くふう展に「木造軸組み接合金具」の発明について応募し最優秀賞を受賞した方である。連絡をしてきた木質構造研究会とは、昭和56年(1981年)に東京大学大学院内で結成された研究者・技術者の集まりで、会則によると、木材・木質材料・木質構造に関する研究・技術開発の推進を図り、これらの分野の技術の正しい理解と発展普及に寄与することを目的とするとあり、年数回の研究会の開催のほか、機関誌「Journalof Timber Eng ineering 」の発行や、木材・木質構造に関する研究・技術開発の推進に多大な貢献をした個人を対象とする顕彰等を行っている。 過去の受賞者の顔ぶれの出自を見てみると、リストには、ミサワホーム株式会社・サンモク工業株式会社・森林総合研究所・東京大学工学部建築学科・日本鹿島建設株式会社・島根大学総合理工学部・工学院大学・株式会社竹中工務店・東京大学大学院工学系研究科・京都大学生存権研究所・日本繊維板工業会・明治大学理工学部建築学科・・・等の研究者や教授の名が見られ、顕彰当日は、参集した研究者の前でノーベル賞受賞者のように自分の研究内容の発表を行うようである。そのような木質構造研究会の第29回杉山英男賞の受賞者が、沖縄県から選ばれたのである。呉屋氏は、南城市(旧佐敷村)出身で昭和6年生まれ、佐敷小学校を卒業すると進学することなく自らの希望で大工の職を選び、建築現場で先輩や親方の指導を受けながら研鑽を積んだ。22歳のときには既に棟梁となっていて、沖縄独特の工法「貫工法(ヌチジャー)」の技術を修得していた。戦後は、県内で建設会社に就職していたが、昭和58年(1983年)から3年間、サウジアラビアに派遣され作業員の宿舎建設に従事した。サウジアラビアでの建設住宅は所謂ツーバイフォー住宅(*2)で、規格材料同士を金物で合理的に接合する工法を初めて経験した。生来真面目な呉屋氏は、ツーバイフォーで用いる金具にヒントを得て、これを沖縄で昔から伝わるヌチジャーに応用すれば、Ci 寄 稿17 OKINAWA INDUSTRIAL FEDERATION NEWS