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概要

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  「沖縄の産業まつり」に出展される発明品から、私が弁理士として最近経験した稀有な実例をご紹介します。実は、沖縄の発明者が、本土の弁理士に依頼して国際出願をしたそうです。オリンピックも開催されるし、外国の女性が自分でも簡単に着られるようにと、着物の腹周りのサイズを選択する複数のファスナーを使用し、また内側の裾が隠れるように、操作の際に自ずと持ち上がる工夫がされています。 このアイデアで特許を取ろうと本土の弁理士を通して出願したのですが、この弁理士は、ファスナーは既に多数有るし、特許取得は難しいと判断し、衿を後ろに倒す「衿抜き」の技術をメインにして特許出願したそうです。 この出願内容に不安を抱いた発明者は、那覇商工会議所を通して、エキスパート登録してある私に相談に来たのです。私は、それまでに特許庁から報告が来た従来技術や発明者の調査結果では、ファスナーでサイズ選択する技術は存在しないし、私は特許を取れると判断し、特許取得を勧めました。ところが、本土の弁理士は依然として「ファスナーによるサイズ選択は特許取得が難しい」と判断したそうです。 それでは発明者の意向に添っていないので、私が日本出願だけを引受け、権利内容も変更しました。また、権利範囲が狭くならないように修正し、早期審査を請求しました。 ところが、審査の結果、新たな引用文献として、ウェストサイズを調節すべくファスナーによるサイズ選択のアイデアが見つかりました。この従来技術の出現で、発明者のアイデアは特許困難と判断し、発明者と共に何か新しいアイデアは無いか再点検したところ、前記の裾の内側を持ち上げるアイデアが見つかりました。しかし、このアイデアは図面で大体は表現されているが、明細書には全く記載されていませんでしたので、特許請求の範囲に追加したところ、新規事項の追加として判断され、拒絶査定となりました。 発明者の意向に添って明細書を記載してあれば、簡単に特許されたのにと悔やまれました。しかし、ここで断念したら、これまでの努力が水泡に帰すと思い、拒絶査定不服の審判を請求し、新規事項の追加とならないように慎重に特許請求の範囲を補正し、審判官のお考えも参考にした最終の表現を決めました。その結果、ようやく特許するとの審決が降りました。私の弁理士生活の中で最大の苦難でしたので、審判が通ったときは嬉しくて家内と祝杯を上げました。特許料の支払いも完了し、近日中に特許番号も付与されて、特許が成立します。 これで晴れて、発明者の希望する複数のファスナーによるサイズ選択のアイデアが特許されたことになります。この経緯から、読者の皆様もお気付きのとおり、本土の弁理士が難しいと判断し、発明者の意向を汲まずに衿抜きの技術を出願したのに、私の判断では、新たな従来技術が出現したにも係わらず、審判で特許を取得できたという事実です。発明者は、期待通りの特許が取得できたので、オリンピックに合わせて着物を発売したいという企画が実現できると、準備を進めています。 本土の弁理士を信頼し従っていたら、着物の事業は他人に真似され、独占的な製造販売は実現しませんでした。この実例から学べることは、どんなに素晴らしいアイデアを発明しても、特許を取る際に依頼する弁理士の選任や出願時の相談を密にしないと、出願が台無しになる危険も有るのです。特許が取れなくなることを考慮すると、沖縄の弁理士よりも本土の弁理士が信頼できるとも限らない実例です。 弁理士の選任は非常に困難ですが、私は弁理士と依頼者との意思の疎通が大事だと思います。弁理士法の第3条では、「弁理士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない。」と規定しています。また逐条解説書では、「高い人格、品性を保持し、常に業務に関する専門的知見の陶冶を行うとともに、公正、誠実な立場で業務を行い、国民の信頼に応えることが必要とされる」と解説し、弁理士に自覚を促しています。 産業まつりの「発明くふう展」では、紙面で紹介した発明品以外にも県内で発明された様々な商品が場内・場外で紹介されます。是非、会場に足を運んで発明品をご覧ください。弁理士の選任の難しさ福島特許事務所 弁理士 福島康文13 OKINAWA INDUSTRIALFEDERATION NEWS